講義

5月23日(金)「耐病性」

ボローニャのバラ新品種試作場とイタリアのバラ

Dr. Maria Eva Giorgioni

ボローニャ大学 農業・食品科学学部准教授 イタリア

開催時間 8:30 - 9:15
概要

 バラは、古代から現代に至るまでイタリアの庭で最も一般的な花として親しまれてきました。イタリアには少なくとも24種の野生バラが自生・分布しており、Rosa caninaは最も広く分布している種であり、生垣の低木や森林の周辺、低木地などどこでも見ることができます。これに続いて、R.agrestisは弱酸性の土壌に適応して生育しています。
1950~60年代のガーデニングや修景(ランドスケープ)の主流はハイブリッド・ティーローズ(HT)でしたが、ここ10年で、より華やかで用途の広い樹形で、病害や環境への高い体制があり、手のかからない、そして豊かな歴史を持つオールドローズが再び注目されたことにより、その数を減らしています。この動向を背景に、イタリア国内では多くの公共庭園や個人のバラコレクションが設立し、その結果としてオールドローズの販売に特化した多くのナーセリーができました。
SOI(イタリア園芸学会)では2か所のバラコレクションを認定していますが、実際にはそれを上回る数のバラ園が存在しています。ジャン・フランコの植物学バラ園やカーラ・フィネスキ(イタリアのカヴリーリアにあるバラ園)、古代バラ博物館(モンタニャーナ)、ザ・ガーデンオブローズ(ロンツォーネ)、ヴァンクナエ・ロザエバラ園(ロッカンティーカ)、ローマ市のバラ園(1933年から国際バラコンテストを開催し、82回開催を数える)が含められる。また、モンツァバラ園も忘れてはならないバラ園で、新品種のコンテストを開催して51回になり、2004年には世界バラ会連合により優秀庭園賞を受賞しています。最後にファエンツァの「ラファエレ・バッツォッキ」試験・教育バラ園を紹介します。このバラ園は1990年代に造られ、2020年からボローニャ大学国際新品種コンテストを開催しています。このコンテストは、益々暑く乾燥する地中海の環境下で、手のかからないガーデニングに向く耐病性新品種を選ぶことを特に目的としています。

 

略歴

ボローニャ大学農業・食品科学学部の准教授で、観賞用植物の生産、温室下での植物生長の計画、人口照明、種苗場生産、緑地や公園、庭園の設計・管理について研究と教育を行っている。1990年代からオールドローズとモダンローズの修景バラに関心を持ち、低維持管理での適応性を審査(評価)している。現在、彼女はボローニャ大学国際新ばらコンテストの主催者兼科学的責任者で、今日までに第5回が開催されており、世界バラ会連合の支援を受けている。

バラを病気に強くするには ― 品種改良と栽培法との組み合わせ ―

Hayden Foulds

ニュージーランドばら会会長 ニュージーランド

開催時間 9:15 - 10:00
概要

 植物が病気に感染するのは、病害三角形(Disease Triangle)と呼ばれる三要素が組み合わさるためです。すなわち、病原体の存在、感受性のある宿主植物、そして病害が発生しやすい環境条件です。このうち一つでも欠くことができれば、病気の発生は起こりません。
バラ属の野生種や品種は、真菌、ウィルス、細菌など様々な病害に対して感受性を持っています。これらの病害は植物組織の壊死(ネクロシス)、生育不全または植物組織の徒長などの病徴を引き起こします。
長年、バラは病害に弱い植物という印象が一般のガーデナーたちに定着しており、バラを丈夫に育てるには農薬散布が不可欠だと考えられてきました。しかし、近年ではより多くの人々にバラ栽培を楽しんでもらうため、高い耐病性を備えた品種の開発が進められています。世界中のプロ及びアマチュアの育種家たちは、無農薬選抜プログラムを活用し、積極的に新品種の開発を行っています。

耐病性のあるバラを育てるためには、品種選択ばかりでなく、適切な栽培管理が必要です。植栽場所(風通し、日当たり)、株間、剪定、施肥・潅水を適切に行う栽培経験が必要となります。これらのすべてのことがガーデンにてバラを丈夫に育てることに関係しています。

本講演では、耐病性を改善するために過去なされてきた育種と、今後の可能性について探ります。バラ栽培者にとって特に問題となる4つの主要な病害、黒星病(Diplocarpon rosae)、さび病(Phragmipedium tuberculatum)、うどんこ病(Podosphaera pannosa)、べと病(Peronospora sparsa)に焦点を当てて見て行きます。また、バラの栽培方法が病害抵抗性にどのように影響を与えるかを検証し、活用可能な対策を提案します。

略歴

ニュージーランドばら会の現会長であり、出版物の編集者も務めている。パーマストンノースの国際ばらコンテストに深く関わっており、ばらの育種にも着手を始めた。ニュージーランド国内外の出版物の多くの記事を執筆している。

彼はマッセ―大学で応用科学(園芸学)の学士号を取得し、パーマストンノース近くのニュージーランド自生植物のナーセリーで繁殖責任者として勤務している。また、国際植物増殖者協会(IPPS)ニュージーランド地域の会長も務めている。

耐病性育種:科学的、実用的な視点から

Dr. Thomas Debener

ハノーファー ライプニッツ大学教授 ドイツ

開催時間 10:30-11:15
概要

 植物の耐病性は、病原体により攻撃され、取りつかれた際に、植物がいかに抵抗できるか、その能力として定義されます。耐病性についての対策は様々で、植物の種類により違い、植物と病原体との間での相互作用にも違いがあります。これは植物が病気への抵抗性を示す際に、植物体そのものの構造的な強さや病原体に攻撃されてから誘導される生物化学的過程における違いなど多様な防御の仕組みがあるからです。遺伝的に決まっている抵抗性には、量的な遺伝を示すもの(多くの遺伝子が関与しているもの)から、一つの遺伝子により決まってくるものまであります。一般に多くの遺伝子が関与している抵抗性は、単一の遺伝子によるものより、持続性があります。

 バラはいろんな病原体や害虫に攻撃され、その抵抗性については他の植物と違いはなく、他の植物でより詳しく研究されているものもあります。過去数十年にわたるガーデンローズの重要な病原体への抵抗性についての数多くの研究では多くの興味深い病害抵抗性が明らかにされてきていて、それらのいくつかは既に商業的なバラ育種の場面で利用されて来ています。そのうちのいくつかの例をここでは紹介します。しかしながら、耐病性育種への科学的アプローチは商業的なバラの育種では広く採用されているとはいえません。  

しかし、ドイツのADR評価試験やアメリカのEarth-Kind®バラ評価試験のような国単位のプログラムは、耐病性の高いバラを選抜する有効な手段となっており、こちらもここで簡単に紹介します。

略歴

ボーフム大学、マールブルグ大学、ケルン大学で生物学を履修。1986年にジャガイモの分子マーカーに関する研究で博士号を取得し、1990年から1992年までシロイヌナズナの耐病性についての博士研究員として勤務。1993年には観賞用植物育種研究所で自らの研究グループを立ち上げ、バラやほかの観賞植物の遺伝解析に取り組む。2004年にはハノーファーのライプニッツ大学で分子植物育種の教授に任命される。彼の研究は主にバラやジャガイモ、ほかの作物のゲノム学と耐病性に焦点を当てている。

景観植栽のなかのローズロゼット病とその対策

Dr. David H. Byrne

テキサスA&M大学園芸学名誉教授 アメリカ

開催時間 11:15-12:00
概要

 ローズロゼット病は小さなフシダニ科のダニによって運ばれるローズロゼット・エマラウィルスによって引き起こされます。この病気は北アメリカに起源し、1990年代初めに、景観植栽のなかのガーデンローズで甚大な枯死を引き起こし始めました。2010年代までには、ガーデンローズは何千株にまで枯死し、大規模な造園会社はプロジェクトでバラを植栽えなくなる事態に至りました。
2013年には、アメリカのバラ業界は問題を明確にし、解決策を導き出すために、全ての関係者を集めて、ローズロゼット病会議を招集しました。その結果、2014年に集中的な研究プログラム開始する国家的プロジェクトが立ち上げられ、現在まで続いています。
最初の研究として、RRV(ローズロゼットウィルス)診断技術の開発、ローズロゼットのエマラウィルスとそれを媒介するダニ(Phyllocoptes fructiphilus)の生物学的特性の解明、RRD管理手法の開発、RRD抵抗性の管理手法を構築し、数百種類のバラについてRRD抵抗性を評価しました。更に、抵抗性の遺伝的根拠を特定するための遺伝的集団を作り、RRD 抵抗性バラの育種を促すための分子ツールを開発しました。そして分布図とRRDの識別・管理に関する最新情報を提供するウェブサイト(roserosette.org)を立ち上げました。
現在でも、フィールドでのウィルス圧力やダニ密度を下げられる管理戦略はありますが、最も望ましいアプローチはRRD抵抗性品種の育成です。これまでに、RRDに対する部分的な抵抗性を持つ2つの遺伝子が特定されています。現在の研究では、これらの遺伝子がもたらす抵抗性のメカニズムを解明し、RRD抵抗性バラの育種を促進するためのゲノムツールの開発を進めています。

 

略歴

テキサスA&M大学園芸学名誉教授であり、ばら遺伝学のベイジー寄付基金長も兼務。1990年代初頭、ばら育種家で数学教授を退職したロバート・ベイジー博士と共にミニばらの父とされるラルフ・ムーア氏からの寄付によって強化されたバラ育種および遺伝学プログラムを開始。ローズロゼット病と黒星病への抵抗性のあるバラを開発する国家的プロジェクトを指導し、多倍数体作物育種においてゲノム情報を活用するための計算ツールの開発と統合、そして国立ばらクリーンプラントネットワークの確立にも携わった。

モデレーター

Steve Jones(世界バラ会連合編集長)、中山真義(農研機構・野菜花き研究部門)

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