講義

5月21日(水)「品種保存」

未来につながるバラの品種保存

Brigid & Charles Quest-Ritson

イギリス

開催時間 8:30 - 9:15
概要

 ガーデニングの歴史は、今日では絶滅してしまったバラの物語でもあります。バラのマーケットは常に新奇性を求める傾向があり、今年市場に出る新品種もきっと短命となるでしょう。植物の栽培は園芸の一現象ではなく、私たちの文明の文化史の必要不可欠な構成要素です。私たちが愛するバラという植物は、壮大な歴史の中で、常に重要な役割を果たしてきました。
インターネットの進化により、植物学と歴史学を分野横断的に研究する研究者たちは、これまで以上に多くの情報に触れることができるようになりました。系統発生論(進化論に基づく)の出現により、栽培バラの起源や品種間の類縁関係を明らかにすることが可能になりました。しかしながら、世界中のガーデンには、まだ認知されず、名前すら持たないヘリテージローズが数多く存在します。
今日見られているバラは、未来の品種保存にとっての課題なのです。その名前が消え、栽培されなくなるようなことはあってはなりません。では、私たちには何ができるのでしょうか。どうすれば私たちに喜びをもたらしてくれるバラの遺産を、孫の世代まで確実に残すことができるでしょうか。私たちには資金、エネルギー、ビジョン、そして優れた組織が必要です。また、全ての国が各々の役割を果たす必要があります。そして、世界バラ会連合が取組を主導していくことが求められています。

 

略歴

長年バラに関わっており、多言語に翻訳されている「Encyclopedia of Roses(バラ百科事典)」(Dorling Kindersley, 2003) を執筆。チャールズは約1600の品種のつるばらが記述されている「Climbing Roses of the World(世界のつるばら)」を執筆。両名はイギリス王立バラ会の理事を務め、ヒストリック・ローズグループの代表も務めた。ブリジッドは世界バラ会連合の保存・ヘリテージ委員会の議長も務めた。チャールズはヘリテージ・ローズ雑誌「BAON」の共同編集者であり、両者は翻訳者としても活動している。ブリジッドはイギリスの外交官兼学校検査官であり、チャールズは法律家兼歴史家であるが、現在はライフスタイル雑誌「Country Life」のジャーナリストとしてよく知られている。両者はイギリスとアイルランドの国籍を持っているが、フランスに長年居住。イングランドにある彼らの庭園は一般公開されており、フランスの庭園は私有ではあるが約1500本のバラが植えられてる。

Rosa persica交雑種の英国ナショナルコレクション

Daniel Myhill

ロサ・ペルシカ(Rosa persica) の交雑種 英国ナショナルコレクションホルダー イギリス

開催時間 9:15 - 10:00

概要

 Rosa persica交雑種は最近育種されたバラの中でも特に斬新でユニークな存在です。R. persica の花が持つ赤い「目」(ブロッチ)は、他の野生バラには見られない独特な特徴です。この革新的な特性を園芸品種のバラに取り入れることを目指し、1960年代に英国のジャック・ハークネスとアレック・コッカ―が交配を始めました。
彼らの先進的な育種はラルフ・ムーア(アメリカ)、クリス・ワーナー(英国)及びピーター・イルシンク(オランダ)などの育種家に引き継がれ、この分野における最前線で活躍しました。近年では、さらに多くの育種家が独自の交配を行い、この10年ほどで急速にペルシカ・ローズの人気が拡大しています。特に英国では、クリス・ワーナーが発表した極めて病害耐性の高い品種が注目されており、‘アイ・オブ・ザ・タイガー’や、‘ブライト・アズ・ア・ボタン’、2015年に権威ある「ローズ・オブ・ザ・イヤー」を受賞した‘フォー・ユア・アイズ・オンリー’などが人気を博しています。

 この特徴的なバラの保存を目的として、2022年にR. persica交雑種のナショナルコレクションが作られました。現在、55品種が保存されており、中には、ハークネスが生み出した初期の品種‘ティグリス’や‘ナイジェル・ホーソン’や、クリス・ワーナーの‘ピーターズ・ペルシカ’やコルデスのシー・ユー・シリーズなど最新品種までを網羅しています。コレクションを形成するということは、単に植物を集めることに留まらず、その開発の歴史を記録し、未来へと受け継ぐことでもあります。この講義では、R. persica のストーリーと、将来世代のためにこれらを保存する私の小さな役割について話します。

 

略歴

プラント・ヘリテージから授与されたロサ・ペルシカ(Rosa persica) の交雑種の英国ナショナルコレクションホルダー。

コレクションは55の異なるペルシカの交雑種から成り、ノーフォークのケニングホールにある私有の庭園に所有されている。英国バラ会ブリーダーズグループの代表であり、前会計担当者。RHS(英国王立園芸協会)樹木委員会の准会員、ばらコンテストの審査員、イギリス、ハートフォードのロッチフォード国際ばらコンテストのモデレーターパネルのメンバーも務める。またケニングホール・ガーデン・クラブの代表者も兼任。

カリフォルニアのバラの歴史

Gregg Lowery

The Friends of Vintage Roses 学会員 アメリカ

開催時間 10:30-11:15
概要

 北米でバラが出現したのは2,000~3,000万年前のことです。そして人類が北米に到達したのは、わずか1万6千~2万5千年前。彼らが東半球で見慣れた植物であるバラに北米でも出会えたことは、嬉しい驚きだったに違いないと思います。

16世紀半ばにヨーロッパ人がカリフォルニアに到達する以前から、アメリカ先住民は生活のなかにバラを取り入れており、日常生活におけるバラの実用性や、精神的な価値を理解していました。

ヨーロッパ人はカリフォルニアに園芸用のバラを持ち込み、囲いのある庭園に食用植物や薬用植物と並べてバラを植えました。メキシコから北へと延びるスペイン宣教師の足跡は今も「バラの道」として残っています。

カリフォルニアの魅力に引き寄せられたヨーロッパ系移民たちは、温暖な気候と花咲く丘陵を探して西へと進んでいきました。それは同時に、アメリカ先住民らの平和で自然と密接に結びついた暮らしの終焉でもありました。1849年にシエラ・ネバダ山脈で金が発見されると、新たな人口の波がこの地に押し寄せ、すべてが変わっていきました。

移民の波は新たな生活を築くための道具と共にバラももたらしました。バラは定住と安定の象徴でもあったのです。その後100年の間に、バラはこの地に多大な影響を与えてきました

この講演では、最初にモントレーで入植者に販売されたティーローズの船荷から、世界最大のバラ生産産業が誕生するに至るまで、カリフォルニアの人々の暮らしの中でバラが果たす役割を形作ってきた重要な歴史的動きを探ります。そして、歴史におけるバラを見ることで、現代の私たちの庭園におけるバラの役割を考えます。

 

略歴

ヘリテージ・ローズ基金(HRF)の創設メンバーで、2005年から2015年まで出版担当の副会長を務める。2005年にはカリフォルニアのバラの歴史に関するHRF会議をエルセリートで主催した後、他の編集者たちと共にHRFの機関紙、ロサ・ムンディ(Rosa Mundi)を考案し、発刊。また、世界のミステリーローズ(Mystery Roses Around the World)の共同編集も行った。

2012年には、歴史的なバラのコレクションを非営利団体である「The Friends of Vintage Roses」に譲渡した。この団体は、バラを教育的、文化的、科学的価値のために保存することに献身しており、バラを保存するために共同の使命を掲げ、他者と協力し共有する活動を行っている。

スウェーデンにおけるファウンドローズの収集と品種保存

Svein Osen

元スウェーデンばら協会会長、元ノルディックばら協会会長 スウェーデン

開催時間 11:15-12:00
概要

 ノルディック・ローズは北欧諸国で育種された、丈夫で観賞価値の高いバラに注目し、その普及を目的としたプロジェクトです。これには、各地で発見されたバラ(ファウンドローズ)も含まれています。本プロジェクトは、スカンジナビアの5つの国のばら会が協力し、共同で推進しています。

 POM:栽培植物の多様性のためのスウェーデンのナショナルプログラム

プロジェクトリーダー:Lars- Åke Gustavsson

  POM は栽培植物資源の長期保存と持続可能な活用を確かにするものです。本プログラムはスウェーデン農業省が主導し、国の関係機関、各種団体、民間セクターやNPO(非営利組織)と連携して実施されています。関係団体には、スウェーデンばら会や各地のばら園、植物園、野外博物館、北欧遺伝資源センター(NordGern)などが含まれます。そして様々なPOMの活動を統括するのが、アルナープにあるスウェーデンの農業科学大学です。
POMの研究・保存の対象となるバラは、1950年以前からの歴史が記録文書として証明されている必要があります。スウェーデン原産のバラは、全てスウェーデン国立遺伝資源バンクに保存されます。
POMの主な活動は次のようにまとめることができ、これら全てがスウェーデン国内のヘリテージローズを未来へと繋ぎ、その遺伝的多様性を活かした持続可能な利用を促進する重要な取組です。

・調査及び記録 ・収集、評価、分類 ・コレクションの評価と分類 ・比較栽培 ・DNA研究 ・文献、アーカイブ調査 ・遺伝資源バンクのバラ活用促進(繁殖・育種含む) ・教育、情報発信及び出版活動 ・栽培植物の研究(遺伝的多様性の研究等) ・国際協力

 

略歴

1968年ノルウェー出身。2007年からスウェーデン在住。

学歴・技能: 船長(マスター・マリナー)

1997年以来、自然と生物多様性の探究に興味を持ち、バラとアイリスのアマチュア育種者でもあります。

経歴:

2019年~2024年: スウェーデンばら協会会長

2018年~2024年: ノルディックばら協会会長

2018年~2025年: WFRS 保全・ヘリテージ委員会スウェーデン代表

WFRSブリーダーズクラブのメンバー

2024年に開催されるWFRS地域大会およびヘリテージローズ大会のコンビナー(招集権者)

www.nordicroses2024.com

 

2025年の福山で開催される世界バラ会議に参加することは、私にとって非常に特別であり、また長年禅の修行をしているという私的な意味でも名誉なことです。

モデレーター

Martin Stott(英国ばら会)、御巫由紀(千葉県立中央博物館 展示課長)

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